OHVエンジンのヘッドに付いているタペットという部品のクリアランス調整をDIYでやっていきます。前回までにオルタネータープーリーを手で回転させられる状態にし、ロッカーカバーを外しました。今回はいよいよタペット調整作業です。
前回までの記事はこちら。
さていよいよ本題のタペット調整を行っていきたいと思います。ひとつひとつの作業は難しいものではないのですが、仕組みや手順は複雑だったりするのでザッと流れを先に書いておきます。
- 点火プラグを緩める
- オルタネータープーリーを回して1番のピストンを上死点に合わせる
- タペットの固定ナットを緩めてクリアランスを調整できる状態にする
- 堆積したカーボンの汚れを掃除する
- シックネスゲージを使ってタペットのクリアランスを調整して固定ナットを閉める
- 上の1~5を4番ピストンに繰り返す
それといつもの作業では使わない、タペット調整で使用するために購入した工具は2つあります。
- シックネスゲージ:隙間のクリアランス幅を測るためのゲージで、厚さ別の金属板。
- 5/16インチ六角レンチ:オルタネータープーリーを回転させるためのレンチで、長さが短いものが必要。
これらがないとタペット調整ができないので事前に揃えておきます。そのほかはメガネレンチやソケット類、それとマイナスドライバーといった普段使うセットがあれば大丈夫。あとできれば点火プラグを緩めた方が作業しやすいので、プラグレンチもあった方が良いですね。
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エンジンを手で回しやすくするには、点火プラグを抜いて燃焼室の圧力が抜けるようにする。
まず点火プラグ(スパークプラグ)を緩めるところから。点火プラグを緩める理由は2つあって、まずクランクを回していった時にプラグの穴から燃焼室内の圧力を抜くためです。内圧が抜けないと手でクランクを回すのが重たいからで、作業性の問題です。それともうひとつはピストンが狙った位置(上死点)に来ているか、点火プラグ穴から目視で確認するため。
点火プラグはプラグレンチで緩めていきます。97年以降のエアコン付きインジェクションミニはオルタネーター裏にある1番の点火プラグが工具の入るスペースが狭いことで有名(めっちゃ高い専用工具が売られてる)ですが、エーモンのユニバーサルジョイント式プラグレンチで僕は外すことができました。ちなみにローバーミニは車体進行方向に向かって左(つまりボンネットを開けて覗き込むと、ラジエーターのある右側)から順番にエンジンピストンを1~4番と呼ぶみたいです。
点火プラグの作業をする時に気をつけなければならないのが、プラグコードとの接続の順番を間違えないようにすること。「ペンで番号を書いてしまう」か、1本ずつプラグコードを抜いて点火プラグを緩め、プラグコードを戻して(点火プラグにさして)から次のプラグの作業に移るかした方がいいですね。
それと点火プラグを抜くと穴が直接燃焼室の中に通じているので、ゴミが入らないように気をつける必要があります。まず4番エンジンルームをフロントから覗き込んで一番左)から作業していくので、1~3番の点火プラグは緩めたら外さずにそのまま差し込みっぱなしにしておきます(不必要に抜くと必要にゴミが入る可能性がある)。そして4番の点火プラグは緩めたら抜いてしまう前にフーッ!!っと息を吹いてプラグ穴周りのゴミを飛ばしてからプラグを抜きます。
エンジンを回して1番と4番のピストンを上死点にもってくる。この状態でタペット調整を行う。
さて、この状態になったらオルタネータープーリーを回していきます。ここで登場するのが5/16インチ六角レンチ。このレンチをプーリーの中心に差し込むのですが、柄が長いものだとラジエーターにぶつかって入りません。これが厄介です。L字型の六角レンチを切り落として短くしている人も結構多いようですが、それはそれで工具が必要になるのでなるべく最初からスペースに入る工具を探したいところ。
今回僕が使っているのはトラスコの5/16インチ六角レンチ。Amazonで超安く手に入るので助かります。これだとギリギリ、というか若干ラジエーターにぶつかっちゃいますがなんとか差し込んで作業することができます。今思えばですが、ラジエーターにぶつかって塗装が剥げるので養生ぐらいしとけばよかったですね。。
それとほんの少しですがスペースを広げる方法があって、それはサーモスタット交換の時に外したラジエーターの上部を固定する三角ステーを外すこと。これでラジエーターが多少左右に動くようになるので、左手で軽くラジエーターを押し避けつつ、右手で六角レンチを差し込むことができます。
プーリーはどちらの方向に回しても問題ないと聞きましたが、まぁ通常のエンジンによる回転方向と同じ方向に回しておけば間違い無いでしょう。
これでベルトを通じてエンジンクランクが回ります。エンジンクランクに連動してもちろん各ピストンも上下します。ピストンの燃焼運動についてはいくらでも詳しいサイトがあるのでここでは作業に関連して必要な最低限しか書きませんが、各ピストンの上下運動は2往復で1セットです。ピストンが一番上に上がった状態から1回目の上下運動ではガソリンと空気を吸いながらピストンが下がり、上がりながら混合気を圧縮します。そして2回目の上下運動では爆発を起こしてピストンが下がり、上がりながら排気します。これで2往復1セットです。
今回タペットクリアランスを調整をするためにはピストンを上死点にする必要があるのですが、タペット調整ができるタイミングはこの2往復のうち1回、排気から吸気に切り替わるタイミングです。まず先ほど外した4番の点火プラグ穴を覗き込みながらプーリーを回していき、中のピストンが一番上に来た時に止めます(厳密でなくても大丈夫です)。この時ピストン上端はプラグを差し込む穴のちょっと下まで来るはずです。明るいと覗き込んでピストンが見えますが、見えなければドライバーかなんか棒を差し込んでピストンの位置を確認できます。棒を差し込んだままプーリーを回し続けると棒が内部で引っかかってピストン上部などを傷つけるので注意です。棒を差し込んだ状態でちょっとプーリーを回すぐらいなら大丈夫なので、差し込んだ棒の動きでピストンが一番上にあるかどうかが分かります。
タペット調整は1番ピストンで4箇所、4番ピストンで4箇所、これで全8箇所が調整できる。
このとき4番ピストンの上についている2つのタペットの調整ネジ部を押してみて、カタカタとわずかに動くようならタペット調整可能です。全く動かないようなら混合気の圧縮から爆発に切り替わるタイミングなので、もう1周ピストンを上下させると排気から吸気に切り替わるタイミングになり、タペットがカタカタと動くようになるはずです。
この4番ピストンを上死点にした時に、同時に4つのタペットが調整できる状態になります。それが上の画像で指差しているタペット。この4つを同時に調整してしまいます。4番左右、3番左、2番左の合計4つです。
と、すぐに調整ナットを緩めにかからないで、まずは現在どれぐらいのタペットクリアランスになっているかをチェックしておきます。ローバーミニの標準クリアランスは冷間時で0.28mm~0.33mmなので0.30mmのシックネスゲージで合わせておけばいいはず。でも0.35mmでキツめぐらいが良いというのがマニュアルに書いてあったので今回はそれに従います。
シックネスゲージの0.35mmを差し込んでみますが、ちょっとキツイかも(つまりちょうど良い)というタペットもあれば、スッと入る、つまり緩いタペットもありました。スッと入るといってもスカスカのガタガタという感じでは無いのでめちゃくちゃ状態が悪いということもなく、むしろ
「そんな調整するほどの状態でもなかった?」
と思ってしまったほど。まぁでもクリアランスに問題なかったとしてもクリーニングを兼ねているので、現状を理解したら調整用というか位置を固定するためのナットを緩めていきます。メガネレンチのサイズは1/2インチ。
ただし結構締め付けが固かったのと、メガネレンチだと他のナットが邪魔で深くかからない箇所もあったので、緩めるときだけソケットを使った方がいいかもしれません。ただし閉める時はソケットではなくレンチが必要になります。それはまた後ほど。
クリアランス調整のついでにいったん全てのタペットを緩めて掃除する。
今回はプッシュロッドの頭とロッカーアームの接触部分を掃除するので、隙間を広くするべくタペットを最大まで緩めます。先程の固定用ナットをしっかりと緩めたら、その軸であるボルト部分のヘッドをマイナスドライバーで回すと、ロッカーアームの隙間が広がったり閉まったりします。でも指でも回せるぐらい軽いです。
最大まで広げると上の画像ぐらい隙間ができるので、布で付着している汚れをガシガシ擦ります。布で擦るだけでも十分に汚れが落ちたので、ワイヤーブラシなどの傷がつくものでは掃除しない方がいいですね。
掃除する前は下の画像ぐらい汚れが付着していたので(実害のあるレベルでは無いし、5万キロ以上走行してこんな感じなら全然いい方かもしれない)、掃除後はどれぐらいきれいになったかがわかるかと思います。
掃除が完了したら4つのタペットを締めていって、クリアランスを調整します。タペットのボルトは指でも簡単にスルスル回るので、片手でシックネスゲージを差し込みながら、いったん止まるところまでもう一方の手でボルトを締めます。そこからほんの僅かに緩めたりして、シックネスゲージが若干きついけど抜き差し可能な具合を目指します。
いい感じになったら固定用のナットを締めるのですが、タペットボルトの調整は結構繊細だったことがわかるはずです。固定用ナットの締め付けでちょっとでもボルトが一緒に回ってしまうとクリアランス設定が狂います。なのでバッチリだと思った位置のまま片手でタペットボルトを押さえつつ、もう一方の手はシックネスゲージを置いて固定用ナットを締めます。仮締めです。
最後に固定用ナットを締めるにはコツがいる。メガネレンチとマイナスドライバーの両刀で締める。
その後、本締めをするためにメガネレンチの出番です。ソケットレンチではダメな理由ですが、ボルトの頭にマイナスドライバーを当てて調整ボルトが回らないようにしながら、もう一方の手で固定用ナットを締める必要があるため、ソケットだとボルトの頭を隠してしまうからです。
本締めする時は上の画像のようになります。マイナスドライバーでボルトを押さえつつ、固定用ナットだけを締め込みます。それでも若干設定が変わってしまうことがあるので、本締めしたらもう一度シックネスゲージを差し込んで具合を確認し、イマイチであればやり直した方がいいですね。
これを4箇所、つまり全体8箇所のうち半分を完了させたら全体の半分は完了です。
そして次は残り半分を調整します。これまでと全く同じように1番ピストンを上死点に持っていくことで残りの4箇所を調整することができます。下の画像は1番ピストンにドライバーを差し込んで上死点を確認しているところ。
これで全てのタペット調整が完了しました。結構大変そうに感じるかもしれませんが、手順さえ理解してしまえばそれほど大変な作業では無いかもしれません。なのでたまには調整をしてあげる方が良さそうですね。
そして最後にロッカーカバーを閉めるのですが、ロッカーカバーのガスケット 類を交換してから戻したいと思います。ということで最後のガスケット 交換作業は次回。